徳川おてんば姫
江戸幕府の最後の将軍、徳川慶喜の孫に当たる井手久美子さんによる一代記です。ご高齢になり、戦前の大六天のお屋敷(徳川慶喜が最後に暮らした東京のお屋敷)のことや当時の華族の暮らしぶりについて、知っている人は自分だけになってしまったので、書き残しておかなければということで出版されたとのこと。
3400坪もあって大勢の使用人がいるお屋敷の様子など、江戸時代のお殿様の暮らしはこんな感じだったのかな、と往事が忍ばれます。でも、著者が「みなさんが思っているより、ずっとお転婆でびっくりされると思いますよ」と書かれているように、現代から見ると「意外とお姫様の暮らしも普通なんだな」という感じです。
ただ、現代と同じような「洋服を着て、車で学校に通って、テニスをしたり、葉山や軽井沢に避暑や旅行に行く」暮らしは、当時の庶民の「いつも和服で、小学校を出たら働いて、車などはアメリカ映画の夢の世界」の暮らしぶりからすると、とても贅沢なことだったのでしょうね。
この本の一番面白いところは、お姫様の暮らしぶりの変遷です。第六天の大きなお屋敷の暮らしから、戦争で八王子に疎開して、自分で農作業も行う暮らしを行い、戦後に戦費の借金を帳消しにする莫大な財産税でお屋敷と華族の身分がなくなり、お医者さんと再婚して普通に働くようになり、老後は千葉のマンションで暮らすという変化は、まさに戦後の暮らしの変化そのものです。
すごいのは、どんな新しい状況でも前向きに楽しんで暮らされていること。好奇心も旺盛で、どんなに社会が変わっても、こうやって前向きに暮らしていけばいいんだと勇気づけられます。
お姉さんは、皇族の高松宮の妃殿下になられるなど、いろいろなエピソードが満載です。ストーリーに引き込まれて一気に読めてしまう面白さなので、おすすめです。(東京キララ社)
Write a Reply or Comment