日本工芸の100年/岡山市立オリエント美術館
先日、岡山市立オリエント美術館を訪れました。現在、島根県立美術館と共同企画の「日本工芸の100年」という展覧会が行われています。東京国立近代美術館所蔵のコレクションを中心に日本の工芸品の100年の歴史を振り返る展覧会です。本来は、仕事で行っている博物館の改修計画の参考に展示ケースを見に行ったはずが、すっかり展示に目を奪われてしまいました。
まずは、展示品の質の高さに目を引かれました。最初の一部屋を見た段階で、これはすごい展覧会だぞ、とスイッチオンです。次に驚いたのが、工芸の分野もしっかりと時代の美意識の影響を受けていること。焼き物などの陶芸や鋳物、漆器などなので、いつの時代も同じようなデザインかと思ったら大間違いです。
それでは、順番に見ていきましょう。
まずは、明治時代前半の作品から。写真のように手の込んだ伝統的な作品で、19世紀のヨーロッパの万国博覧会に出品され、大人気だったそうです。工芸品は当時の日本の主要な輸出品だったとのこと。そういえば、岡山でもい草を染色して複雑な模様を編んだ「花むしろ」は、明治35年に約120億円相当も輸出され日本3位の輸出品だったと聞いたことがあります。今の自動車みたいなものですね。主要産業は時代とともに変化していくんですね。
国の主要産業として、政府の指導のもとに取り組み、作家の個性や創造性を重視する動きの一方で、無名性へと向かう民藝運動が柳宗悦を中心に起こります。無名の職人が作る雑器に工芸本来の健康的な美があるという考えです。濱田庄司などが代表的。いまの陶芸作家は、この時代のものがいちばんち近いでしょうか。
同じ頃に、金工の分野では欧米のアールデコの影響を受けた作品が作られます。モダンなデザインに近づいてきました。
戦後は、人々の暮らしが急速に近代化し、欧米の生活スタイルが主流となる中で、1954年に日本伝統工芸展が開催されました。技術保存の観点が強かった選定基準を芸術性重視へと転換を図り、人間国宝の認定制度が発足して、作家性の高い工芸品が作られます。岡山の備前焼の伊勢崎淳さんも出ていますね。
一方で、1970年代の大阪万博の頃から、実用性を持たないオブジェとしての作品が登場してきます。建築も1970年代から磯崎新さんや篠原一男、伊東豊雄、安藤忠雄など、作品性の高いアートのような建築が登場してくるので、完全にシンクロしています。
ここまでくると、もはや実用性はほとんどなく、オブジェ以外の何ものでもありません。1990年頃の作品はポップでかわいらしいのは、建築やフィリップ・スタルクの家具やプロダクトにも通じるでしょうか。
左のページの作品は、陶芸にもはや見えません。シンボリックな力強い造形は、東京オリンピックのスタジアムで有名になった、イギリスのザハ・ハディドの建築に近い力強さがあります。
以上、どうでしたでしょうか?工芸とひとことでいっても、かなり時代の美意識の影響を強く受けていることが分かります。建築デザインの流れとも完全にシンクロしているので、社会全体の美意識が時代に合わせて変わっていくんですね。現在は、アートとしての作品性の時代は終わって、民藝のような実用的で素朴な器や工芸品が人気なので、次の時代に移っているのではないでしょうか。
出展作品も粒ぞろいで、とても見ごたえのある展覧会なので、おすすめです。岡山では今週日曜の19日までの開催。その後は、6月29日から8月25日まで島根県立美術館で開催されます。興味のある方は、ぜひご覧ください。
<岡山市立オリエント美術館はこちら>http://www.orientmuseum.jp/
最高裁判所の設計者、岡田新一氏の建物も素晴らしいです。オリエントのモザイク画も充実。
<島根県立美術館はこちら>http://www.shimane-art-museum.jp/
こちらは宍道湖の眺めが素晴らしいです
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