村上ラヂオ3/村上春樹
村上春樹の久しぶりのエッセイ集。雑誌の「アンアン」に連載したものがまとめて本になりました。3とあるように、村上ラヂオとしては3冊目です。春樹さんも若い20世紀(不思議な響きですね。1980年代頃のことです)にはたくさんエッセイを書いていたのですが、最近は全然書いていないようだったので、久しぶりのエッセイ集になります。
文庫本で3ページくらいの、読みやすいエッセイをたくさん収録。村上春樹のエッセイの特徴は、ライトな感じで読みやすいこと。日々の暮らしの中で気づいたことを、さらっと書いています。村上春樹の小説は、慣れていない人には読みにくい(というか入りにくい)感じのものが多いと思うのですが、エッセイはとても読みやすいです。誰でも読めるんじゃないかな。かくいう私も若い頃は(まだそんなに年でもないですが)村上春樹の物語の世界がなかなか理解できなかったのですが、エッセイはとても楽しく読んでいました。「村上春樹は小説は難しくてよく分からないけど、エッセイは面白いなあ」と思っていたものです。なので、小説が読めない方にもおすすめですよ。
久しぶりに読んで「不思議だなあ」と思うのは、30年前に書いたエッセイと、印象があまり変わらないこと。普通は年を取ったら、書く文章の内容や印象がずいぶん変わりますよね。それが変わらないところが春樹さんのすごいところかなあ、と感心したのでした。「アンアン」も当時は若い女性向けの新しい雑誌でしたが、最近の女の子には老舗の雑誌に感じられるのかな。
印象が変わらない秘密は何かと考えてみたのですが、ライトな文体にあるような気がしました。作家によって特徴がある文体を使う方もいらっしゃいますが、村上春樹の文体は、とてもシンプルで独自の色やにおいのない、透明な感じなんですよね。だから、小説も文章が難しいのではなくて、独自の物語世界に読者が入り込めるかどうかで読めるかどうかが決まるのですが、エッセイの場合には、時を経ても変わらない印象につながっているのかなと思いました。
もちろん、時を経て変わっているところも少しあって、ひとつはエッチな話題の際におやじ的に少し遠慮が少なくなっているところ。春樹さんも若い頃は「こんな事書いて少し恥ずかしいな、女の子に不快な印象を持たれないように、さらっと書いておこう」的なところがあったのですが、年を取ると恥じらいが少なくなるんですね。もうひとつは、年齢を重ねると感じられる悟りや達観のようなものが入っているところ。このあたりは若いひとが読むと面白いところではないでしょうか。
とにかく、読みやすいエッセイ集なので、小説が読めない方にもおすすめです。ちょっと、村上春樹風の文体で書こうと思ったのですが、なかなか難しいですね。(新潮文庫)
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