女のいない男たち/村上春樹 文藝春秋刊
村上春樹の9年ぶりの短編小説集。いろんな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たちの六つの物語。
今までの村上ワールドから一歩踏み出した、新たな傾向の物語集です。これまではどこか不思議な、世の中から離れて深い井戸に潜っていくような物語が多かったのですが、ごく自然な日常の中からそれぞれの心の闇を照らしていくような、新しい方向性が見えてきました。前々回作の1Q84までは、80年代以降の成熟した社会の中で自閉的方法を通して自己を確立するべく何かを探していくことがテーマでした。しかし、本作では社会に開かれた一部としての自分を見つめ直すような、そんな切り口になっています。
21世紀のつながりが求められる社会の中で、新しい方向性での今後の展開が期待されます。
短編の内容は以下の通り。
「ドライブ・マイ・カー」――舞台俳優・家福は女性ドライバーみさきを雇う。死んだ妻はなぜあの男と関係しなくてはならなかったのか。彼は少しずつみさきに語り始めるのだった。
「イエスタデイ」――完璧な関西弁を使いこなす田園調布出身の同級生・木樽からもちかけられた、奇妙な「文化交流」とは。そして16年が過ぎた。
「独立器官」――友人の独身主義者・渡会医師が命の犠牲とともに初めて得たものとは何だったのか。
「シェエラザード」――陸の孤島である「ハウス」に閉じこめられた羽原は、「連絡係」の女が情事の後に語る、世にも魅惑的な話に翻弄される。
「木野」――妻に裏切られた木野は仕事を辞め、バーを始めた。そしてある時を境に、怪しい気配が店を包むのだった。
「女のいない男たち」――ある夜半過ぎ、かつての恋人の夫から、悲報を告げる電話がかかってきた。
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